キリスト教徒でもないのにクリスマスを祝い、年が明ければ神社仏閣に初詣をする日本人の宗教観というのは世界から見れば変わっているが、そもそも日本人には古来から『八百万の神』信仰があって、宗教に関しては寛容な国の方に入る。

【写真-1 死んでも密集で白く見えるのが墓石の一区画】
ただし、これに商業主義が入り込んで、宗教心とは全く関係ないクリスマス・ケーキだとか、ヴェレンタインのチョコレート、最近では『ハロウィン』が俄かに注目され、仮装をして街で騒ぐのは日本的といえば日本的。
フィリピンは信者数およそ9000万人、アジア圏で最多のカトリック教徒を擁する国だから、生活の中にカトリック行事が根付いていて、日本人が訳も分からず騒いでいるハロウィン期間はこちらでは『万聖節』と呼んでいる。
ただし、カトリックにはハロウィンという言葉も習慣はなく、11月1日を『諸聖人の日=All Saints Day』、次の日を『死者の日』といって、墓参りへ行く慣習がある。
この墓参りもチョッと花を手向けるではなく、前の日からテントを立てご馳走持参で来て夜を徹して一同で賑やかに会食し、中にはキャンプ用のテントを張って泊まる者も多い。
テントを張って寝られるのは写真-1の様な公園墓地で、これは民間会社が経営し、写真-1の場所は元は湿地帯の原野で、墓地ビジネスは一種の不動産ビジネスで用途のなかった土地を安く買い占めて開発、販売するが、墓需要というのは増える一方だから業績は良い。
写真-1の墓地は一区画1m×2m強の面積で、一区画に上下に2つの棺を埋葬出来るらしいが、こういった区画の埋葬場所を持てるのはフィリピンでは中産階級に入る層で、かつては田舎に墓地を持っていたが、都会に出て来て墓を移したために購入する人も多い。

【写真-2 死者にこんな設備が必要なのかと思うが見栄でしかない】
写真-2は説明しなければどこかの新興住宅地の様な風景だが、同墓地の別の区画で、ここは写真-1の区画とは違って家の様にそれぞれ一棟が墓になっていて、持ち主が好きな様にデザインしている。
こういう建物風の墓を造るのは富裕層だが、中でも中国系が多い。ただし、昔からフィリピンに住んで成功している中国系は中国系の専用墓地を造ることが多く、何度か行ったこともあるが、写真-2以上の豪華というか過剰に大きい墓所が広大な敷地に連なっていた。
その中国系墓地でも貧富の差はあって、小さい墓の並ぶ区画もあって死んでまでも墓の大きさで見栄を張るのかと妙な気持になったが、それは決してなくならない人間の性分というものであろう。

【写真-3 貧富の差が著しいことが死んでも分かる】
写真-3は写真-2の区画で見た墓所で、敷地は墓ゆえ広くはないが、建物は高級住宅風でその中に棺が塗り込められていて、シャンデリアが下がっているのもあるし、中にはクーラーまで設置している建物がある。
フィリピンは『スクオッター=不法占拠住民』という言葉が頻繁に使われる様に、都市部には公共の土地や他人の土地に勝手に家を建てて住んでしまう地域が非常に多い。
当然、住環境は非常に悪く盗電、盗水など珍しくなく、貧困が貧困を生む密集地域なので、新型コロナの爆発的感染地帯でもあり、そういう住環境から見ればこういった墓所は見栄の何物でもなく、良く造るなと思う。

【写真-4 人口は爆発し墓地も爆発している時代で新規公営墓地は難しい】
上述の墓事情は中産階級から富裕層だが、大多数を占めるどうにか生活している層、貧困層、最貧困層はどこに墓を造るかというと、写真-4はセブ市の公営墓地内で、左の方に見える箱を積み重ねた様な物が墓になる。
一つの墓は棺を納めるギリギリの広さで、これが5段から6段くらい、場所によってはそれ以上の段数があり、そういう形態は都市部の公営墓地に限らず地方でも同じ様に造られ、写真-4に写っている子ども達の多くは墓地内で暮らしていて、その親も墓地で生まれているなど珍しくなく、墓参者相手に商売をする人も多い。
この手の墓は、自治体によって多少変わるが5年間棺を収めた後明け渡すらしく、当然遺骨を本葬にしなければいけなく、上述した墓地ビジネスに繋がって来るが、中には放置されてしまうこともあるらしい。
実際、地方の墓地へ行くと遺骨が無造作に積み上げられているのを見るが、カトリックの影響か日本人程『遺骨』に執着しないのも関係があり、これが何年か前にあった旧日本兵戦没遺骨収集事業事件を起こる一因になる。
この事件はフィリピンの戦没者遺骨を目的とする日本のNPOが政府資金を使ってフィリピンで遺骨収集をしたが、その収集した遺骨の中にフィリピン人の遺骨が多数混じっているのが判明し問題になった。
NPOがフィリピンの墓地に野晒しになっている骨を金を払って集めたことが分かり、特に少数民族の伝統的な墓地からも持ち出され、これがフィリピン社会でも問題になって、以降フィリピンにおける日本の遺骨収集は止まっている。

【写真-5 手前の墓石は最近埋葬されたところ】
写真-5は冒頭の公園墓地の万聖節時の様子で、年に一度の大切な行事でありこの様な風景は当たり前で、墓は年々増えるから段々場所取りが大変になって来ている。
ところが今年は新型コロナが爆発的感染し、感染者数は37万人に迫ってインドネシアと感染者数のトップ争いをする状態になっていて、収束する気配は見えないため、万聖節期間中の墓地の立ち入りには禁止措置が取られた。
そのために、万聖節前に墓参をする人が増えて、これはこれで密な状態になっているらしいが、1月のマニラで開催される数百万人が押し掛ける『ブラック・ナザレ』というフィリピン最大の宗教行事が中止となった。
ブラック・ナザレと同じ月にセブではやはり大きな祭『シヌログ』が開催されるが、今のところは中止という話は出ていないが、やはり中止になるのではないかと思われる。
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