外交官として国を代表して派遣される者を普通は『大使』と呼んでいるが、正確には『駐箚特命全権大使』といい、駐箚(ちゅうさつ)とは公務員が国の命令によって派遣されて駐在する意味の古語らしいが、今時こんな言葉を知っているあるいは使うのは外務省の人間だけであろう。

【写真-1 今はヴィザ発行は業者経由だから昔の様な喧騒はない】
日本の外務省に就職するには国家公務員試験でも別枠があり、入省して出世して最後に行き着くのは大使職で、普通の省庁では次官が官僚の出世の最高位になるが、外務省では次官経験者から駐米大使になるのが普通になっている。
こういった変則的な例は他の省庁にもあって、安倍政権末期に問題になった法務省の検察人事では次官経験者が検事の最高位の検事総長に就任するのが慣例になっている。
写真-1はマニラ首都圏にある日本大使館の正面入り口で、マニラ湾沿いのロハス大通りというフィリピンを代表する大通り沿いにあり、アメリカ大使館も同じ通りにある。
御覧の様に敷居の高い環境だが、ここに移転する前の日本大使館はマカティ市の雑然とした建物の連なる地域にあって、当時は日本へ出稼ぎに行くいわゆる『じゃぱゆき』さん全盛期で。大使館前にはヴィザを取得する若い女性が群れていた。
付近にはヴィザ取得のためのフィクサーの様な連中が屯し、この旧大使館に用があって出入りすると、女性達が羨望の眼差しで見つめるし、大使館内の領事窓口では係員に怒鳴っている日本人が居たりして、バウル崩壊直前の日本の混沌を具現していた。
さて標題に入るが、フィリピンの駐ブラジル女性大使が公邸内でメイドに対して叩いたり髪を引っ張るなどの虐待行為を写した録画が、ブラジル内のマスコミに流れ、それがフィリピン国内で問題になり、フィリピン外務省は調査に入った。
この大使、いわゆるキャリア外交官で1995年に入省し、2001年に2等書記官で中東に派遣、2006年には1等書記官としてベルギー・ブリュッセルで勤務、2012年までEU担当で駐在していた。
2014年には大使まであと一歩の総領事としてイタリア・ミラノ総領事館に駐在するが、当時のミラノにはフィリピン人が15万人も在留していて総領事館の中でもかなり花形である。
ヨーロッパでフィリピン人が多い国はイギリス、イタリアで医療関係のいわゆる出稼ぎ労働者、或いは婚姻で住んでいて、昔も今もフィリピンへの送金額はかなり多い。
2018年にこの人物ブラジルに大使として赴任するが、入省後23年で大使になるとはかなり能力があったと思われ、歩んできた任地もそれほど辺境ではなく外務省の出世頭と見て良い。

【写真-2 アジア某国でのオーストラリア大使館主催のパーティー】
大使館というのは基本的には一ヶ国に一ヶ所を置くが、駐在国との関係や重要性などの理由で一つの大使館で他の国を兼務することがあり、このブラジル大使はコロンビア、スリナム、ヴェネズエラの計4ヶ国の大使を兼務していた。
コロンビアやヴェネズエラなどかなり大きな国で大使を派遣していてもおかしくはないが、やはり予算の関係でフィリピンの様な貧乏国では全ての国に大使館をという訳にはいかない。
しかし、日本でもアフリカでは主要国には大使館を置いているが小さな国には置かずに周辺にある大使館が兼務している例はたくさんあり、日本との交流が薄い、経済の結び付もなくしかも在留邦人数が100人も満たないとなれば、兼務にした方が良いのは確か。
問題を起こしたブラジル大使が南米4ヶ国の大使を兼務していたのも、あまり南米や中米のラテン・アメリカ諸国にはフィリピン人が少ないということもあり、そういえば先年住んだ中米のホンジュラスにもフィリピン大使館はなかった。
外交官というと人品卑しからず、スマートな人間と見られがちだが、小生の知人に日本の外務省に務めていたのが居て、大使になる人物というのはどういう人かと聞いたら『ただのオッサンだよ』といわれて、そういうものかと思った。
実際、ブラジル大使の暴力行為の録画を見ると、普通の口うるさいオバサンがメイドに日常的に暴力を振るっているのが分かり、エリート外交官といっても中身は大したことがないと暴露している。
この暴力を受けていたメイドはフィリピン人で、既にフィリピンへ帰国しているが、恐らく大使特権として本国からメイドを呼ぶことが出来たのではないかと思うが、自費ではないであろう。
こういう例では日本の大使館に大使館付き調理人というのがあって、これは大使家庭の日常の食事を作るが、要人を招いての食事会用の料理を作ることも名目に入っていて、これに公費がどのように使われているのか分からないが、相当数の調理人が日本から派遣されている。
数々の特権に守られている大使以下の外交官だが、制約はあって、例えば公館から何キロ以上離れる場合は任国に届けないといけないなど、それなりに不自由さはあるらしい。

【写真-3 正面角の建物は戦前のセブ領事館でこの様に残っている】
セブには日本の『領事事務所』が置かれていて、日本から領事が3人派遣されているが、2021年にはこれが総領事館に昇格するという。総領事館になると領事はその倍以上になるらしいが、そんなにセブには仕事があるのかと思う。
セブの総領事館への昇格というのはずいぶん前に決まっていたが、今の大統領ドゥテルテが当選したら、その地盤であるダヴァオ事務所が先に総領事館に昇格してしまって、これなど安倍政権が総領事館を当選祝いに贈ったのは明らか。
ダヴァオ管轄の在留邦人数は500人くらいで、セブは4000人を超えるから数の上では圧倒的で、日系の進出企業数もダヴァオなど問題にしない程セブの方が多く、ダヴァオが総領事館になったと聞いた一部の日本人はそんな馬鹿なと思ったらしいが、安倍の忖度政治はこういう所にまで及んでいる。
最後にこの問題を起こしたブラジル大使、体面を重んじる外交官の面汚しとフィリピン政府はカンカンで召還は免れず、外交官生命はおろか役人人生も終わりかも知れないが、日本の様に大使に女性大使など珍しい100%男社会と比べると女性大使の多いフィリピンから女性大使が減るのは残念ではある。
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