現大統領のドゥテルテが当選した2016年以降の日本のODA(日本の税金)がフィリピンでいかに使われているかを検証したい。

【写真はJICAフィリピン事務所が入るマカティ市のビル】
ODAというのはOfficial development assistanceの略で『政府開発援助』のことだが、『税金』から出ていて、その使い方、使われ方に関心を持って良いと思うが、日本人は税金徴収については文句を言う人は多くても使い方に言及する人は少なく、ODAの中味がどうなっているのかと関心を寄せる人など少数である。
ODAには大きく分けて3つの分野があり、1つは有償資金協力、2つは無償資金協力、3つは技術協力になり、この他に外務省や国際協力機構(JICA)が色々な名称で呼んでいる個別ODAもあるが、ここでは有償、無償、技術協力の3分野に触れる。
外務省にしろJICAにしろ、近年の情報開示趨勢の時代にはODA案件について誰が見ても分かるようにHP上に載せ、JICAなど『ODA見える化サイト』と銘打って掲載しているが、これはそれ以前のODAは関係者以外は見え難かった証左にもなる。
ただし、開示しているこの手の中で、外務省のものなどPDFで300ページ以上に渡って記述されていて、公文書として残すからそうなっているのは仕方がないと理解しても素人にはその量だけで圧倒されて読む気にならない。
JICAも同じでフィリピンに限って最新の2019年度版を見ると、個別毎の案件がPDFで239ページに渡って書き連ねていて、役人特有の焦点を暈す要領を得ない悪文で書かれ、しかも独り善がりの専門用語が多く、こちらも読む気にならない。
もう少し分かり易いのはないかとJICAのHPを探っていたら、先述した『見える化サイト』の中にプロジェクトを検索出来るコーナーがあり、国名をフィリピン、事業を全部、開始年度をドゥテルテ登場の2016年からにして検索したら28件にヒットし、これを基に話を進める。
この場合、2016年のドゥテルテ当選以前にODA案件は調査が行われているからドゥテルテ登場とは関係なく採用された案件も多いと思うが、採用される背景までは分からないので、同等に扱うことにする。
28件の案件の内一番多いのは有償協力13件で、次に技術協力12件、無償協力が3件となっていて、日本のODAは有償、即ち借款案件が他の国と比べてかなり高い比率を占めているので有名だが、やはりそうかという結果になっている。
この中で技術協力というのは保健とか防災、交通、開発といった民生分野の文字通り技術面の協力でマスタープランを作ったりなどのコンサルティン業務が多く、個別プロジェクトに要する金額も少ないためにここでは省くことにする。
有償協力でセブと関係するのは『セブ-マクタン橋(第四橋)及び沿岸道路建設事業』で、調印は2020年6月に行われているが、4番目の橋の話は噂段階では知っていたが地元が知らない内に唐突に決まった感じを受け、契約額は1192.25億円と1000億円を楽に超える大プロジェクト。
プロジェクトの写真が載せてあり、一番最初に日本のODAで架橋された第1マクタン大橋の混雑具合をいかにもという感じで撮っていて、さもこの大プロジェクトが必要不可欠のような印象を与えているが、日本のODAで2000年に開通した第2マクタン大橋について一言も触れていないことは解せない。
また、現在民間による3番目の橋が架橋中で、これと併せてセブ-マクタン間に4つも橋が必要なのかという議論もあり、過去の日本のODAで架橋した2つの橋は計画段階から将来を見通していないとの批判があり、バラバラと架橋しているのは日本の企業に25年毎に仕事を回している為ではないかとの指摘もある。
完全にドゥテルテ案件と思われるのは、ドゥテルテ一族が市長で牛耳るダヴァオ市で進行中の道路プロジェクトで『ダバオ市バイパス建設事業(第二期)』で348.30億円、2020年6月に契約。
このプロジェクトの第一期は『ダバオ市バイパス建設事業(南・中央区間)』で、2015年8月に239.06億円で契約されているが、ドゥテルテはまだダヴァオ市長時代で大統領選に立候補するかどうかと話題になっていた時期で、この時期でドゥテルテ当選を見抜いたJICAは慧眼ともいえる。
ドゥテルテは任期中に大型プロジェクトを政策の中心に置き、それに乗っかったのが日本政府、JICAで特に鉄道、地下鉄建設は工事額が大きく次々と決めて行くが、工事受注の企業は日本企業に限り、使われる機材も日本の物を使うようになっていて、ODAが日本企業の海外事業部門の一つとなっている。
ドゥテルテは大型プロジェクトを行うことで景気浮揚を図るとしているが、実際は任期6年間でどれだけ形として残せたかという実績作り、自分自身を誇示するためといって良く、後述する大型プロジェクトでは任期中に無理に部分完成を強いているものも多い。
やはりドゥテルテ当選直前の2015年11月に契約された『南北通勤鉄道事業(マロロスーツツバン)』は首都圏から北にあるクラークまで鉄道を繋げるプロジェクトだが、内38キロ分の鉄道を敷くのに2419.91億円が投じられている。
この路線に2019年1月に新たな『南北通勤鉄道延伸事業(第一期)』が契約され、契約額は1671.99億円と上記と併せて4090.9億円も費やし、しかも最終的に完工させるにはまだ借款が必要である。
恐らく完工させるには5000億円以上かかるのではと思うが、5000億円もかかるプロジェクトなど日本でもそうはなく、日本国内では頭打ちの鉄道関連企業を生き残させるためのプロジェクトといわれても仕方がない。
JICAの鉄道事業借款案件はまだいくつもあって、『首都圏鉄道3号線改修事業』は2018年11月の契約で、総額381.01億円。これは管理の悪かった同路線に新車両を導入するなど日本の大手商社が一枚噛んでいる。
フィリピン初となる地下鉄工事も進行中で、全長25キロの『マニラ首都圏地下鉄事業(フェーズ1)(第一期)』が2018年3月契約で1045.30億円になるが、フェーズ1、第一期とある様に完工するまでにはまだ1000億円単位の予算が必要である。
地下鉄施工技術などフィリピンにはないから、こちらも日本企業の独壇場だが、日本での地下鉄工事案件もやはり頭打ちの時代となっていて、海外で活路を求める企業の戦略が合致して造られる地下鉄路線になる。
鉄道プロジェクトというと、ドゥテルテの地盤のダヴァオ市を中心に南北に102キロの鉄道を中国の借款356億ペソ(約700億円)というのがあり、当初はドゥテルテ在任中に開通するような計画であったが、元々無理な計画で今では退任までに部分開業しようと躍起になっている。
この鉄道はミンダナオ島内に総延長1500キロ以上の鉄道網を敷く計画の最初の路線になるが、自動車輸送が主流の現在、開通しても維持管理は勿論利用者も見込めずお荷物になるのは必至だが、中国の影響力が強いドゥテルテは進める気らしい。
日本と中国は海外での鉄道路線敷設で激しく争っていて、この路線も当初は日本側が考えたらしいが中国の安売りプロジェクトには敵わなく撤退していて、こういった例では新幹線プロジェクトでタイ、インドネシアなどで日本は中国に負け続けている。
唯一輸出に成功した台湾新幹線も追加車両の価格を巡って、あまりの高さに台湾側からキャンセルされる事態がこの間あったが、いくら技術力や品質の良さを誇っても相手のニーズを汲み取れないとこうなる訳で、日本の驕りがあった。
この他、有償協力案件で特筆されるのは『フィリピン沿岸警備隊海上安全対応能力強化事業』で、これはアキノ政権時代の2013年12月の契約、総額187.32億円だが、文字通り沿岸警備隊に新造艦艇を日本で造って運用させるプロジェクトになる。
これには続きがあって、同プロジェクト第二フェーズが164.55億円で2016年10月に契約するが、最初のプロジェクトでは小型艇中心であったが、第二フェーズでは大型船2隻で、先頃三菱重工下関造船所で進水式が行われ、続く2隻目もドゥテルテ退任までに竣工するという。
この2隻はかつての駆逐艦を少し小さくした大きさで、南シナ海に進出する中国艦船に対して睨みを利かせるために造られ、沿岸警備隊とはいうものの既に海軍仕様で、何れも安倍政権時代に決めている。

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