【承前】 12月16日夜半にセブ島中部から南部にかけて甚大な被害をもたらした台風22号『オデット』襲来から20日以上経ったが、小生宅は電気は復旧したものの、水道に関しては復旧する兆しはなく期待する気もない。

【写真-1 ショッピングモール前に植えられた樹は引き千切られ、多くの看板は吹き飛ばされて無残な姿を晒している】
セブ市と近隣市町を併せて『メトロ・セブ』と呼ぶ350万人以上を擁するセブ都市圏の給水事業は『MCWD』という機関が担っていて、ここによると全水道網の78%近くは復旧しているとの発表があった。
セブの水道用水源は主に井戸から汲み上げていて、その数138本あり、停電でも対応出来るのは僅か4分の1の34本だけで、後は停電になると手の打ちようがなく電気が復帰するまでどうにもならないとMCWDの担当者は白々と説明している。
道路上に電線が剥き出しになる電気と違って水道は地中に埋設されているから、台風の被害を受けたといっても数日で正常になると思っていたが、このMCWDの連中の停電に備えるという考えが欠如し、平然と責任を転嫁している言い草には呆れ、こういう馬鹿なMCWDの説明を罵ってもこの国では通じてしまうから処置無しである。
非常用電源で動かせるその4分の1も発電機を常日頃定期的に点検、試運転し停電と同時に怠りなく動かせたとは思えないし、発電機用の燃料をしっかり確保、備蓄しているかどうかも怪しいもので、こういう点はやはり後進国と呼ばれる余裕のなさから来るもので一朝一夕に解決されるものではない。
一方、メトロ・セブ地域に電気を配電しているのはVECOという民間会社だが、この会社によると電気の復旧率は現在37%といい、こちらの数字は100%復旧地域と0%地域の平均値だから額面通りに受け取れず、まだ3分の2は電気のない生活を強いられていることが分かる。
電気の復旧を妨げているのは電柱の倒壊によるものだが、こちらの電柱は電線、電話線、インターネット、ケーブル・テレビ線などあらゆる線が無秩序に張り巡らされていて、これをこちらでは『スパゲッティ』と呼んでいるが、その線が電柱の倒壊によって絡み合って元のように繋ぐのが大変となっている。
台風銀座のフィリピンは電柱倒壊など年中行事のようになっていて、過去に学んで線の地中化を進めて災害に強くするなどの考えはあっても良いものだが、毎度毎度その時はその時、何よりも資金、余裕のない国だから地中化など考えるだけ無駄のようだ。
小生宅の電気は停電後10日目に復旧したが、塀を隔てた裏側の区画には不思議なことに電気が通じていなくて、近くの家で1日中エンジン発電機を回す騒音に悩まされたが、これも年が明けた3日頃に電気が通じたようでエンジン音はピタリと消えた。

【写真-2 ショッピングモールの外壁の化粧材が広範囲に吹き飛ばされていて、この残骸は小生宅にも飛んで来て危険極まりなく、他にもこういった破損個所は無数に見られ一体どのように施工したのか聞いたみたい】
VECOが発表した3分の2は停電というより『断電』状態で、そういえば近所の知り合いが最近小生宅を頻繁に訪れるなと思って聞いたら、まだ断電中でスマホの充電に来ていることが分かり同地区の復旧の見込みは全く分からず考えても仕方がないという。
電気はなくても生活には困らず、日が暮れたらローソクを点せば良いが、さすがに冷蔵庫はどうにもならなく、停電以来電気が通じるまで閉めたままであったが、電気が通じてから恐る恐る空けた時の腐敗臭は酷いと分かってはいてもやはりかなり強烈で、大規模ゴミ捨て場以上であった。
冷凍庫に入れていた物は全部腐って廃棄し、冷蔵庫分もほとんどがゴミとなったが、この機会にと隅から隅まで磨き上げて中を整理するが、物入れ代わりに冷蔵庫を使っていたために満杯状態であったのが驚くほど空間が生まれ、結構無駄な物をいつまでも入れていたなと今更ながら気が付く。
ただし、内部を綺麗に掃除をしても庫内に籠った異臭はチョッとやソッとではなくならず、庭で魚を焼いた時の木炭を思い出して庫内に置いておいたら1週間ほどして臭いは薄れたが、冷蔵庫特有の異臭は完全にはなくなっていない。

【写真-3 同ショッピングモールには映画館が2館ありコロナ禍で長く閉鎖状態になっているが、その看板が飛ばされ潰れていて台風被害の恐ろしさを実感する】
被災翌日の12月17日、セブ市中心のスーパーで働いている知り合いは今日から当分仕事は駄目と思っていたら会社から出勤するように連絡が来て慌てて店に向かったが、セブ全体で台風被害を受けたといってもスーパーは営業を開始していて、物資不足でひと騒動ということはなかった。
幸い、16日の台風前日の15日に勤め人には12月分の給与とボーナスに当たる1ヶ月分が併せて支給されていて、現金は皆持っていたようだが、それでも自家発電装置を持つ銀行のATM前には早朝から長蛇の列であった。
コンビニも店を開けていて何れ商品がなくなれば閉めるかと思ったが、早朝から賑わっていて、これはスマホに充電出来る有料サービスが店内にあってそれを目当てに来る客ばかりで店としては売り上げには結びつかず、充電出来るとの話を聞いてやって来た者もあまりの長い待ち時間で諦めて帰る人も多かったようだ。
物資が極端に枯渇することは当初はなく、人店制限のスーパーで買い物をしてきた家人は野菜など3倍の値段が付いていると憤慨していたが、火事場泥棒的に値段を吊り上げるのはフィリピンの常道で、毎回役所や警察は法外な値段で売った店は逮捕すると息巻くが口だけで捕まったという話は聞かない。
停電なので自家発電装置のないガソリン・スタンドは店を閉めていたが、数少ない営業をしているスタンドにはオートバイ、車共に一日中殺到して長蛇の列を作り、給油まで長時間並び、普段でも少量しか給油せずギリギリで走らせている車も多いためにアイドリング中にガス欠する車も続出した。
しかもスタンドによっては通常の3倍もの値段で売ったなどという悪どい話も出て来て、これもスタンドの在庫分を売り切れれば追加の補給は困難と思っていたが、被災数日後にはタンクローリーがスタンドに補給している姿を見て、そちらの供給体制は機能しているように見えた。 【続く】

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