新型コロナの世界的流行によって世界の国々はあらゆる分野で影響を受けているが、フィリピンも例外ではなく、東南アジアで一時はインドネシアと感染者数の数を競うような有様であったが、今は1日当たりの感染者数が数百人まで落ちて、日本が毎日数万人の感染者を出しているのと比べるとかつての流行は嘘のよう。

【写真-1 これが試験会場名物の応援団の様子】
ちなみにフィリピンの累計感染者数は4月15日現在368万2632人、死者は5万9956人。対して日本は729万6628人、死者2万8954人と感染者数はフィリピンの倍以上と恐るべき数になっていて、逆に死者数が少ないのは経済力の差で、フィリピンは金がないと病院にかかれず貧困層の患者は手遅れになり死に至ることが多い。
新型コロナ流行も落ち着いたフィリピンは、従前のように社会は動き出しているが、その中でも2020年3月から2年間も閉鎖していた小中校での対面授業を再開したことは大きく、この対面授業をこちらでは『Face to Face』と名付け略して『F2F』と呼んでいるが、これは『For Sale』を『4 sale』と書くのと同じこちら流の洒落っ気になる。
新型コロナ感染予防のために2年間も連続して学校を閉めてしまうのは恐らく世界ではフィリピンくらいで、ほとんどの国は様子を見ながら閉鎖したり再開したりして教育現場を守っているが、こういう奇特な方策を取ったのはやはり今の大統領の無知から来るもので、この教育を受ける機会を2年間も失った世代は今後大なり小なり影響を受けるのは間違いない。
そういった中、フィリピンの国家試験の中で最も難関とされる『司法試験』の結果が4月12日(火曜日)に発表され、この司法試験は毎年行われるが2020年、2021年と2年続けて新型コロナ流行のために行われず3年越しの試験となった。
その結果を見て驚いたのは合格率が72.28%にも達したことで、例年だと合格率は20%台から30%台なので、今回行われた試験は2年分のロスを埋めるために最初から大量の合格者を出すように当局は考えていて、今年の受験者は儲けものという話も出ている。
これは本来合格する水準の人が2年分溜まり、それが今回合格しただけの話で合格者の能力に手心を加えてはいないと当局は言うが、今回の試験は従来と違い試験会場は地方に分散、試験形式もオンラインを取り入れ、しかも受験科目は少なくなっていて異例づくめであった。
従来の試験はマニラにある大学施設を利用して行われていて、地方の大学出身者はマニラへ出るだけでも大変で、そのため試験の行われる何ヶ月も前から試験会場近くに宿泊所を借りる受験者も多く、試験会場近辺はそれ用の部屋を貸す商売が盛況でそれに伴う飲食店なども賑わった。
今年のようの各地で行われてしまうと、マニラの司法試験受験者を当て込んだ商売はすっかり冷え込んだであろうし、試験会場になる大学近くでは首都圏や地方の受験者の多い大学が写真-1のようにテントを張って応援するのも毎年の風物詩になっていたがそういったものも今年はなくなった。

【写真-2 サン・カルロス大学本館は大戦中の戦火を逃れた歴史的建造物】
例年の三倍近くの合格率という史上稀な結果であった今年の司法試験だが、受験者総数は1万1402人で、合格者数は8241人となっていて、例年だと合格者の成績トップ10を発表し、どこの大学出身者がトップ10に何人入ったというのがニュース欄を騒がせるが、今年は成績を最優秀、優秀といったグループに分けて発表していて少々様変わりだが合格者に順位を付けているの変わらない。
司法試験でトップの成績を取った者は将来が約束されていて、実際政界や法曹界の重鎮はトップで合格した者が多く、彼の独裁者マルコスも司法試験はトップで合格したといういう話も残るがどこまで本当か分からず、今ならフェイクとして退けられるかも知れない。
受験者の出身大学側も学校宣伝には絶好なので、トップ10に入った学生には賞金を出し、以前セブの大学でトップで合格した者がいて、その者には賞金と新車を贈ったという話があり、しかもそのことが大々的に新聞に載ったから、どこの大学でも大なり小なりやっているし、これは他の国家試験でも同じことをやっている。
今年も大学別の合格者数と合格率の順位が合格日と同時にニュースになっていて、それを見ると今年の合格者トップはフィリピン大学(国立)の147人で、2位はアテネオ大学マニラ校(私立)の100人、3位サン・ベダ大学(私立)94人、4位サン・カルロス大学(私立)57人、5位アレラノ大学(私立)39人となっている。
これを合格率で見ると、トップはアテネオの99.64%でこの数字から不合格になったのは1人のみで不運としか言いようがないが、2位にフィリピン大98.8%でこちらも不合格は1人か2人、3位はサン・ベダ大学98.1%、4位サン・カルロス大学98%、5位にサント・トーマス大学(私立)が93%で入っている。
この数字を見ても分かるように私学の合格者が多いことで、トップのフィリピン大学は合格者の数は多いが、官界の要員を作るために設立した大学でこの点は日本の東大と似ているような立ち位置で、法学部以外は目玉の学部はない。
フィリピンでは小学校の時から公立へ行くのは貧乏人という風潮があって、私学に通わせる家庭は多く、実際カトリックが設立した私学の方が教育内容は良く、これは大学でも同じで公立や国立の大学など目じゃない私立大学はたくさんある。
上述した大学の中でサン・カルロス大学はセブにある私学で、この大学はアジアでも最古級の大学で、セブの大学ではトップの評価はあり、高校時代の成績で試験を受けないで入学出来る学科もあるが、全体に難関である。
特に今回の司法試験と関係のある法学部は難関で、入学出来ても途中の授業の難しさから脱落し、他の大学に入り直して司法試験に合格する人もあって日本の大学のような生温さは全くなく、合格率がほぼ100%に近いのはこうして受験者を絞っているせいもある。
この受験者を絞るというのは他の大学でもやっているようで、合格率を上げるために合格の見込みの薄い者には証明書を止めて受験させないという手を使っている話もあって、特に毎年大量に卒業させている看護学科はそうだという。

【写真-3 こちらはフィリピン大セブ校 学生も少ないので今一つ勢いがない】
写真-3はフィリピン大学セブ校で、ィリピン大は国内に10の分校を持っていてセブ校もその一つで、やはりセブにあるサン・カルロス大学以下の私立大学と比べるとパッしない感じもあり、実際セブの大学ランキングでもそれほど良くない。
それでも国内無二の国立大学としての矜持はあって、これまでに大統領を6人輩出していて、10代目のマルコス、最近では14代のアロヨが卒業生で、アロヨの次の大統領前はアキノで、こちらは私学の雄アテネオ大出身で、現大統領のドゥテルテは成績トップ5に入るサン・ベダ大出身である。
今年の司法試験結果に戻るが、その多くは弁護士になり、フィリピンは日本の司法制度と違って試験合格後に司法修習生として長期の研修をしないでいきなり弁護士として看板を上げられるから、かなり違う。
フィリピンはアメリカ型の訴訟で解決することが多く、それだけ弁護士需要は多いのだろうが、何かの公文書を作成すると公証人の押印が必要で、この公証人は弁護士が兼務していてその収入で食っている弁護士も多いという。
今はどうか知らないが、セブのダウンタウンに行くと道路に机一つで公証人の仕事をしている弁護士も居て、料金を支払えば公証していたようだが、日本では公証人というのは500人程しか居ないスーパー職種だが、フィリピンは何万人も居ると思われこれは両国の制度が違うためから来るもので、とやかく言っても仕方がない。

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