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 マルコス独裁政権全盛期の1977年に着工し、1984年にほぼ完成した状態であったフィリピン初のルソン島バタアン原子力発電所(発電予定能力620メガワット)は、1986年のエドサ政変によるマルコス一族のハワイ逃亡と、同年の旧ソ連の『チェルノブイリ原発事故』により、マルコスに変わった当時のアキノ(母)大統領によって事業が凍結状態され、現在もその状態が続いている。
そのため『一度も稼働しない世界で唯一の原発』として有名な存在で、近年は入場料を徴収して内部を見学させる事なども行っていた。
しかし、フィリピンの慢性的な電力不足が騒がれるたびに、バタアン原発の稼働が政府部内で検討され、それを後押しする利権を得る政商などが暗躍していた。
ところが、2011年3月の福島第1原発の史上最悪の原子炉大事故によって、稼働の話は立ち消えになっていた。
ドゥテルテ大統領の原発についての知識、理解力は不明だが、11月初めに地元ダヴァオ市に墓参のために戻った大統領は『私の任期中には稼働はない』と同行した報道陣に表明。
ただし『電力不足が危機的な状況になったら、分からない』と付け加えている。
大統領の発言は、8月に首都圏で開催された国際原子力機関(IAEA)の会議でフィリピン・エネルギー庁長官がフィリピンにおける原発の必要性を発言した内容と食い違い、エネルギー省主導の原発推進は潰えたようかに見えた。
しかしながら、11月11日、エネルギー省長官は『大統領は、安全が保障されるなら原発稼働を望んでいると』と、大統領の考えがわずかな間に変わった事を明らかにした。
大統領の1日の原発稼働否定発言は『フィリピンは原発を動かすほど電力不足ではない』との認識から来ているが、東南アジア諸国中電力料金が高額なフィリピンでは『コストの安い原発』神話をいまだに信奉する財界人も多く、それが政治家を通じて長官発言に繋がっていると見られている。
高額と見られているフィリピンの電力料金は、この10月に公表された国際機関による調査によると、4年前から比べると28%安くなっていて、発電、送電、配電とそれぞれの組織に分かれているフィリピンの電力供給システムの改善によってさらに安くなる余地はあるとしている。
原発稼働に固執するエネルギー省だが、最近発表された国家エネルギー計画(PEP)では、2030年までは石炭燃料発電を主流としていて、その割合は49.5%と見ている。
また、地熱、水力、太陽光、風車発電など再生可能エネルギーが全体に占める割合を35.7%としている。
バタアン原発は当初の予算額5億ドルから23億ドルと、次期東京オリンピック並みに費用が膨れ上がり、その一部はマルコスへの賄賂に化けていると指摘されるいわくつきの原発だが、プロジェクトを請け負ったのはアメリカのウェスチンングハウス社で、同社は現在日本の東芝の子会社になっている。
アロヨ政権時代に稼働に必要な費用を韓国電力公社に依頼した事があり、稼働には最低10億ドル、4年が必要と見積もられているが、原発は使用済み核燃料の廃棄設備、管理、廃炉費用、また事故時の対策など莫大な金がかかるのも福島原発で明らかになっていて、この実態を国民に示すのが大統領および当局の責務と思われるが、場当り発言で糊塗しているのが今回の大統領の食言で明らかになった。
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