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フィリピン南部にあるミンダナオ島は、スペインが16世紀にフィリピンにキリスト教を伝播する以前からイスラム教が浸透していて、現在もフィリピン全土ではカトリックが80%強を占める中、イスラム教徒が多数派を占める地域が多い。
また、ミンダナオ島はフィリピンに残された最後の土地として、カトリック教徒の入植、移住が盛んで、これが土着のイスラム教徒との積年の争いの遠因ともなっている。
1970年に入ってフィリピン政府の対ミンダナオ政策に不満を抱いたイスラム教徒グループが『モロ民族解放戦線=MNLF』を結成して、反政府武闘闘争に入った。
この闘争は内戦状態にまで発展したが、後にミンダナオ島内に一定程度の自治区を獲得する。
しかしフィリピン政府に追従するMNLFの方針に反発したグループが1977年に分派し『モロ・イスラム解放戦線=MILF』【写真はそのシンボル】を結成(モロとはスペイン植民地時代にスペイン人がフィリピンのイスラム教徒をモロと呼んだためだが、本来は蔑称)。
歴代の政権はこのミンダナオ問題に対して和平に持ち込む姿勢はあったが、エストラーダの時代には徹底的なMILF潰しをするなど各政権の温度差は大きかった。
しかし、アキノ政権になってMILFとの和平はミンダナオ島の恒常的な平和につながるとして積極的な動きを見せ、2010年10月には『和平枠組み合意』に漕ぎ着けた。
しかしながら、その後の細部を決める付属書の合意が進まず、暗礁に乗り上げた状態だったが、交渉仲介国のマレイシアで双方の話し合いは延々と続けられていた。
この間、アキノとMILF議長との電撃的な『成田会談』などもあって、アキノの任期終了(2016年6月)までに、新自治政府発足を双方は目指すものの、合意の遅れが指摘されている。
1月22日、マレイシアのクアラルンプールで43回目の準備会議が始まり、付属書で問題になっているMILF部隊の解体方法、新自治政府内で活動する警察組織の在り方、また、常に歩み寄りが難しい『富の分配』に関わる、海洋資源を含めた管轄海域の設定など難問は多い。
MILFと政府が交渉を進める中、蚊帳の外となったMNLFの旧議長派が2013年9月、ミンダナオ島西にあるサンボアンガ市の市街地を占拠し政府軍と交戦、双方で250人前後の死者を出す騒ぎもあり、フィリピン政府は『ミンダナオ和平には、このような動きは障害でしかない』と厳しく批判。
MILFはこういった挑発行為は許さないとし、今年4月までに新自治政府設置を定める『バンサモロ基本法』法案を起草し、5月にはフィリピン政府と国会に提出する見通しを述べている。
これを受けて政府は同法案を優先審議に付し、早期成立を図る考えだが、前政権のアロヨの時代に『政府内政府』を作るのは憲法違反と最高裁で認定されているために、現アキノ政権の思惑通り進むかどうか未確定のところが多い。
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