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マレイシア・クアラルンプールで8月5日に行われた日本政府高官とフィリピン政府高官の会談で、日本政府は首都圏マニラ市トゥトゥバンとブラカン州マロロス市を結ぶ、高架式鉄道を敷設するための円借款供与を表明した。
供与額は20億ドル(約2420億円)に上り、一つの案件としては日本では史上最高額となる。
この供与表明は、6月初旬にアキノ大統領が訪日した際に『総額3000億円の鉄道事業を含むマニラ首都圏の交通インフラ整備』を日本側が協力すると合意されていて、その具体的な案件発表となった。
この借款は『タイド・ローン』になるが、別名を『ひも付き援助』と呼ばれていて、プロジェクト実施に当って計画、監理、建設など日本企業への発注が義務付けられている。
このため、プロジェクトの旨味は日本側へ還流するようになっていて、実態は日本企業の売上補完、救済であってプロジェクト現地には負担が残るだけとの批判が強い。
借款の決まった鉄道敷設プロジェクトは次期政権下の2017年度第一4半期を予定し、2020年に完工する予定で全長36.7キロ、1日当たりの乗客輸送能力は34万人を見込んでいる。
こういったマニラ首都圏の輸送増強計画はアロヨ前政権下で中国による首都圏とルソン地方中部を結ぶ全長90キロの『北ルソン鉄道整備事業』鉄道敷設プロジェクトがあったが、アロヨ前大統領への中国側からの巨大な贈賄疑惑や、沿線住民の立ち退き問題を含めた用地確保に難航し、計画から約2年遅れで着工したものの現在はとん挫している状態となっている。
また、日本の新国立競技場のドタバタと同じように中国政府の事業支援額が当初の5億ドルから4倍の20億ドルに膨れ上がる有様と、西フィリピン海を巡る中国の強権主義に抗するアキノ政権下の2011年、計画見直しが決まった。
こういった事例から、今回の鉄道敷設事業が中国の鉄道プロジェクトと同じ轍を踏まないとは誰も見通せないのが実情で、新国立競技場のような税金の無駄遣いが膨らむのではないかとの指摘もある。
実際に、1991年から日本政府はフィリピン国鉄通勤線(マニラ市-カビテ州)や首都圏LRT1号線などの輸送力増強のための再整備で20億円の借款供与をしているが、住民移転問題などで計画の一部変更を余儀なくされている。
仮に今回の鉄道敷設事業が20億ドルの供与額内で敷設プロジェクトが終了しても、その後を担うフィリピン側は現在でも適正な運賃を徴収できない政治的な赤字運賃設定のため、資金的余裕がなく運営、保守のための新たな海外への借款頼みとなる可能性が強く、プロジェクトその後を自立できない構造的欠陥を克服しないと、新たなる赤字をフィリピン政府は抱えるようになる。
【写真はやはり中国の援助で新線敷設を目論むタイ鉄道】
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