その国の医師の充足状況を調べる指針に『人口10万人当たりに対する医師の数』というものがあって、日本は2010年の統計では約456人だった。これは僻地も大都会も合わせた数字だから実際は地域によって大きな偏りがあり『無医村』という言葉は日本からいまだなくならない。
対してフィリピンの場合、国内の医師総数は約7万人で人口が既に1億人に達している現状から、10万人当たり約1428人の医師数となり、日本の3倍以上も医師への負担があるとフィリピン厚生省が、マニラ首都圏で開催された医療フォーラムで明らかにした。
また偏りも甚だしく地域によっては医師1人に対して3万3千人の割合になる交通不便な所が20~30か所存在し、救急車も検査室もない劣悪な環境の中で診療を行っている病院も多い。
厚生省は『医師1人に対して住民1000人』が理想と目標を掲げていて、そのためには現在の医師数プラス3万人の新たな医師の創出が必要と見ている。
しかしながら、こういった医師を生んでもその受け皿となる公立病院や診療所などの待遇は非常に悪く、絵に描いた餅のような願望であり、実現の目途は予算を含め全く見通しが立っていない。
こういった医師不足は医師のスティタスが日本や欧米とは違って低く、かつ収入も非常に低いためにより高い収入を求めて海外へ流出。あるいは高収入が見込まれる美容整形といった分野に流れ、地道な地域医療に心を砕くといった例は少なくなっている。
中には医師より看護師の方が海外就職のチャンスが非常に高いために、医師資格を持ちながら看護師資格を取り直す医師も多い。
また医師不足の問題だけではなく、看護師にしても毎年大量の看護師資格者を生み、数の上では国内に有資格者が溢れているのにもかかわらず、多くの病院や診療所は看護師不足、質の低下に見舞われている。
看護師の場合、やはり国内の待遇は非常に劣悪で、学校で学ぶ段階から高収入を見込める海外就労を目標にしているために起きている現象となっている。
このように厚生省がいくら警鐘を鳴らしても、フィリピンの国内経済を変えない限りこういった人材流出は止まらず、国民の健康が脅かされる状況は改善されない。
【写真は典型的な地方の病院風景で設備などは非常に劣る】
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